発見力の育て方、鍛え方

Training Critical thinking

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こんにちは、SHIN(シン)です。

バイオ系が専門で、博士号を持っています。現在、在米5年目で研究職です。
このサイトでは科学と技術に関する情報をみなさんと共有することで、世の中に流布する大量の情報に対して自分で判断し行動できるようになるキッカケになれば、と思っています。一言で表せば、情報リテラシーを向上させよう、ということです。
前回からの続きです。前回先延ばしにしてしまった発見力の育て方、鍛え方についてです。

 

発見力は個人の背景や得意な感覚により異なる

 発見力の育て方に正解はありません。それは各個人が育った背景に大きく左右されるからです。五感のうちのどれから発想のきっかけをつかむのかは誰にも分かりません。或いは、ある感覚を別の感覚とともに感じとる共感覚の様なやり方で発想に至ることもあるかもしれません。現在のところ、脳が考えるという余りにも複雑な仕組みに関しては非常に断片的なことしか分かっていません。従って、◯◯式勉強法といった定まったやり方、或いは過去の成功例は全ての人に当てはまることはありません。というより、ほとんど再現性がありません。この再現性のなさは、脳という思考の容れ物は形こそ似ているようでその中身はそれぞれ全く違うから、ということを表しているように思えます。神経細胞の複雑なつながり方は一つとして同じものはない、ということなのでしょう。

 この文章の内容を読んで理解する人もいれば、音声として理解する方が良い人もいるでしょう。また、図解した方が良い人もいるはずです。これらは情報の入力、インプットの例えですが、発想というアウトプットに関しても同じことが言えるのではないでしょうか。
 以下では、いくつかのアウトプットの例を出すことでその雰囲気をつかんでもらえればと思います。或いは、似たような例を各自が頭に思い浮かべることで、内容を適宜置き換えながら理解してもられば良いと思います。

 

経験からの連想が発見力を鍛える

 既に前回にも述べましたが、連想というのは新しい発想に至る典型例の一つだと思います。どんなに些細なことでも「これってあの時のアレに似てるな、ということは・・・」という様な体験は皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか。こんな風に既知の経験と直近の体験とが重なり、その共通項を感じたり、またそこから類推をしたり。これは日頃から多かれ少なかれ各々が行っていることだと思います。

 勉強であれば、漢字学習において部首の偏や旁(つくり)との組み合わせから、初めて見た字でも意味の推測をしてみたり、音読み訓読みを予想したり。英語の文法と他の言語の文法や単語が似ているところから出発して単語の意味や文章の理解が早くなるとかもあるでしょう。英単語の綴りから読み方を予想してみる、というのも良い例だと思います。雨冠に田んぼの田で「雷」(かみなり)という漢字になりますね。雨冠に包むで「雹」はどうでしょう。これは(ヒョウ)ですね。では、雨冠に散るで「霰」はご存知でしょうか。別に知らなくても良いのです。その意味を類推してみるのが目的ですので。正解は(あられ)です。「靄」はいかがですか。私ももうお手上げです。気分がモヤモヤします、、、

 Wednesdayをアルファベットと簡単な英単語を習っただけの段階で正確に読んだり発音できる人はほぼいないでしょう。今もスペルが怪しいという人は多いはず。ご当地アメリカでも間違う人はかなり多いみたいです。フランス語だとどうでしょう。Bordeauxという単語があります。知らない人は脳内発音してみてください。いかがでしょうか。「ぼーでぁぅx、、」みたいな感じでしょうか。私もそんな感じでした。ワインが好きとか仏語が得意な方だとこれをボルドーと読むというのは常識かもしれませんね。私は正解を知った今でも何度これを目にしてもパッとボルドーと読めないことは内緒です。でも、それで良いのです。知らないことに対して、知ろうとすることや推測することが脳への良い刺激になるからです。

 また、運動であれば、似ているけれども少し違う競技を行うことで、本来行う競技の勘を養う、ということを行います。サッカー選手がテニスをしたり、野球選手がゴルフをしたりして、自分の本来の競技における身体の使い方、姿勢、動体視力などを養ったりします。少しずらして行うことで、元の位置を確かめやすくなったりするわけです。

 その他、将棋のプロ棋士がチェスもやって、こちらもプロ級というのはよく知られた例だと思います。その筆頭は羽生善治さんですね。似ているけれども違うことを積極的に体験することで、元々やっていた事との関連を見出し、更にそれを活かすわけです。

 

常に仮説を立て、検証してみることが大事

 さて、これを自分の仕事に置き換えてみた時に何をすれば良いのか、となった途端に思考停止してしまうかもしれません。でも、人の数だけ仕事がありますし、先に述べたようにそれぞれの育った環境も千差万別ですから連想の仕方にも決まりや法則はありません。しかし、練習することはできます。それが小見出しにも書いたように、仮説を立てて検証する、です。言葉に書くと何やら仰々しく見えてしまいますが、普段の生活の中でできる簡単なことを積み重ねていけば良いのです。というより、簡単なことから始めないといきなり難しいことをやろうとした場合にとんでもない方向に進んでしまうと思います。何かアイデアを出す(アウトプット)、というのは既存の情報や知識を入れる(インプット)というのとちょうど反対の行為なので、それを積極的、意識的にやろうという試みです。特に、インプットが得意な人は書かれてあることを理解するのが早く実際に自分ができるような気分になってしまう人が多いので、ここは注意が必要なところです。何かを理解したり正解を知っていることは、これから述べていくアウトプットとは全く異なることなのです。筋トレのやり方、筋肉の名前をいくら知っていても筋肉そのものが付かないのと同じです。

 仮説を立てて検証する、を簡単な例で考えてみましょう。以下、現在から未来を予想する、というのを基本とします。現在得られる断片的な情報から未来の出来事をある程度予測するわけです。

仮説0「現在、世界の人口は約77億人。2050年には◯◯人に達しているだろう」

◯◯の部分はご自身で予想してみて下さい。繰り返しますが、数字そのものを知っている必要はなく、どうなるかを自身で考えてみることが大事な部分です。因みに1900年の人口は約18億人、1950年では約25億人という推定値が一般的です。既に答えを知っている人は、世界における今後の水需要とか他の問題に置き換えてもらっても良いと思います。

 

未来予測に関する私考、試行

 これを踏まえて、過去の経験や現在から未来を予測する、というちょっと大胆なことをやってみようと思います。ここでは二点例を挙げます。将来、私の予想が間違っていて嗤われてもそれはそれで良いのです。仮説を立てて、将来にその検証をする、という積み重ねをすること自体が大事なのですから。と、予めハードルを下げることをしておいて、以下進めていきます。

 

仮説1「今後インターネットの更なる発達によりテレビはなくなる、という世間の予想に私は反対する」

 これは、過去に起こったことからの類推です。かつて新聞が情報発信の全盛だった頃、ラジオが登場し、完全に置き換わるかの様に言われたことがあったようです。しかし、新聞が廃れることはありませんでした。現在もその発行部数は減少しているものの、新聞は未だに現役の情報媒体です。また、ラジオの次には映像の媒体として映画が主流になりました。ニュースの映像を流すニュース映画というものもかなり一般的だったようです。だからといって、ラジオがなくなることはありませんでした。また、白黒のテレビ放送が始まった後に映画がなくなる、ということも同じくありませんでした。ラジオや映画はその全盛期に比べれば商業の規模としては衰退したかもしれませんが、それが全くなくなるということにはなっていません。ラジオはネットの普及で勢いを盛り返している感じすらあります。同じことはテレビにも言えるでしょう。今後も画面を観る、という行為は変わらないでしょうから、視聴する側としてはテレビを見ているのか、ネットを見ているのかの区別をしなくなる世の中になるだろう、という予想です。実はこれは20年ほど前の私の予想です。証拠はないので後付けと言われても仕方ないのですが、一応そういう風に考えていました。実際、既に一部のテレビではYouTube等のネット媒体に映像の一部を流したりし始めています。今後もこの流れは加速することでしょう。つまり、テレビとネットの境目が既になくなったことの現れだということです。赤に青を混ぜても、青に赤を混ぜても見える色は紫で結果は同じです。どちらを先に混ぜても後から見た人にすれば関係のないことです。今の子供達は多分既にネットとテレビの区別を特に気にすることなく視聴しているのではないでしょうか。

 

仮説2「通信規格が5Gになった時に世界が一変する、という世間の予想に私は反対する」

 これも仮説1と似た考えで、過去の経験から情報の伝達速度が更に上がったとしても、マスコミで喧伝されている様なバラ色の未来は訪れないだろうということです。今より更に便利になることはあっても、劇的に何かが変わるということはないだろうと思われます。これも過去の経験からの類推ですが、インターネット回線が電話回線から光回線に変わった時(その間ISDNやADSLといった規格もあった)、IT革命が起きる、といった宣伝が盛んにされていました。また、無線通信もアナログからデジタルへ移行し、更に通信速度の向上が図られ、2G、3G、4G(LTE)へと高速化していきました。現在は4G規格が主流で、今後5Gに順次置き換わっていくことが予定されています。これまで、通信速度が向上したことで確かに便利な面が増えたことは確かですが、革命とまで呼べる劇的な変化が訪れたことはありません。少なくとも、情報の速度が上がったから飛躍的に所得が向上したとか教育の質が上がったとかの事実を目にしたことはありません。寧ろ事実は逆です。日本における所得は過去30年近く賃金は上がっていません。反対に賃金は下がっているとさえ指摘されているのです。

なぜ給料が上がらないのか 「負のループ」に陥った日本

また、教育に関してはIT化が進んで情報を手に入れやすい社会を実現したのにもかかわらず、若者の読解力は逆に低下している、という調査結果があります。

日本の15歳が「読解力低下」!?OECD調査があぶり出す学校教育

 

このどちらもが、通信規格の高速化が必ずしも明るい未来を約束するわけではないことを物語っています。5Gの到来はバラ色の未来を示してはいないのです。勿論、情報の高速化の流れに乗って大きな富を手にする人は現れるでしょうが、ほんの一部に限られる可能性が高いと思います。少なくとも私の周りで光回線になった途端に大金持ちになった人はおりません。そして、貧富の差が更に拡大していくことも同時に起きるでしょう。こういう風な未来に対する暗い予想は余り考えたくないものですから、皆が避けて通る傾向があります。或いは、新しい技術によってもたらされる恩恵の部分にだけ焦点を当てて幸せが訪れるものだ、という物語を描きがちです。しかし、過去を教訓にしつつ、しっかりと現実を見据える必要があります。

 

まとめ

 というわけで今回は、身近な問題や今後起こり得る変化に対する自分なりの予測をする、というのが発見力の育て方、鍛え方になるという話でした。世の中の流れという目に見えない変化に対する気付きになるからです。

  次回は発見力を育てるべき、鍛えるべき理由について述べていきます。答えを先回りして書いておくと、世の中の変化に気付けなくなるから、です。どういうことでしょうか。事例を交えつつ述べていきたいと思います。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

参考文献:

漢字の成り立ちを知るための第一歩。白川漢字の登竜門。

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中学英語でつまづいた人はおさらいから。大人になってからでも英語は身につく。

 

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