問題発見力はPDCAより先に要る

Thinking-problem a priori

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こんにちは、SHIN(シン)です。

バイオ系が専門で、博士号を持っています。現在、在米5年目で研究職です。

このサイトでは科学と技術に関する情報をみなさんと共有することで、世の中に流布する大量の情報に対して自分で判断し行動できるようになるキッカケになれば、と思っています。一言で表せば、情報リテラシーを向上させよう、ということです。

前回からの続きです。問題発見力を更に詳しく解説していきます。

問題発見力の源泉は違和感への気づき

先に答えを書いておきます。問題発見力を生み出す原動力は日々の何気ない行動や観察における気づきです。特に、ほんのちょっとした違和感に対して敏感になればその力は如何なく発揮されます。以下では、発見力と解決力に関しての説明をし、違和感に対する感性の磨き方について述べます。

発見力と解決力は別もの

前回からのおさらいですが、問題解決する力をいくら持っていても、その前提となる問題発見力がないと全体のアウトプット、仕事の質は上がらないことを述べてきました。以下ではそれぞれ発見力、解決力と省略して書きます。大事なことなので、再度アウトプットを表す式を書いておくと、

アウトプット(成果、仕事の質)= 発見力 X 解決力

となります。

今回も具体例を交えながら何が発見力や解決力に相当するのか、を考えてみたいと思います。適宜自分に合った問や答に置き換えてお考えください。

 問: メタノール型燃料電池を作る際に発生する一酸化炭素(CO)による触媒の被毒をどうやって抑えるか

 答1:触媒の安価な製造法を開発する、現在の触媒をナノサイズ化することで性能を向上させる

 答2:新たな触媒を開発する

 答3:COが発生しない反応回路を設計する

問に対して、答1、2は改善案です。通常はこう言った回答が多いだろうと想像します。或いは、こう言った案ばかりを並べて無駄に長い会議を下らないな、と思いながら参加させられている人も多いかもしれません。答1、2は今ある形、枠組みを崩さないままどうにか改善を図ろうという内容になっていることはお分かりいただけると思います。一方、答3は課題の中に答えを求めるのではなく、課題そのものをなくしてしまおう、という発想です。その意味で枠組みの外、ということが言えます。これが今回の解決力(内側)と発見力(外側)の具体例です。

解決力

問題が決まってからの話

順番が前後しますが、先に解決力を説明します。解決力は問題が設定されている時の話です。無理やり言ってしまえば、決まった問題を解く力、が解決力です。設定された問題に対してあれこれ実際に手を動かして結果を出すことに注力する段階です。具体的に行動することに加えてその解決策を練ることも含まれます。ここが分かりにくい部分だと思います。或いは勘違いしたままの人もいます。解決策、と言う形のないモノを考えるのだから課題の発見に含まれるのではないか、と思われる方もいるでしょう。しかし、解決策とは問題が設定されて初めて具体的に練ることができる対象です。従って、ビジネス用語で言えばPDCAサイクルのP(プラン)に当たる計画(=解決策)は解決力の部分に含まれるのです。そこからの行動も評価も改善も全ては解決への道筋となるので、理詰めで進めていくと多くの場合その問題の解決に辿り着きます。似ているけれども条件の少し異なる工程を繰り返し試すことも多いので、かなりの反復作業が要求されます。従って、それを行う人の物理的、精神的なタフさが要求されることもしばしばではないでしょうか。先に挙げたデザイン思考もPDCAの行き詰まりから生み出された代替品と言えるかもしれません。しかし、これも顧客を想定するとかあれこれお作法があるようで、既に解決する対象は決まっていることになります。つまり、その枠組みは既に決まっているのです。この意味ではやはり解決力の範疇に含まれます。どの様な方法を用いるにせよ、枠組みが決まっている時点で自ずと出てくる答えの範囲も限定されてくると言うことです。違う言い方だと、パラメータを動かすことで最適解を見つける作業が解決力の本質になります。シミュレーションゲームが好きな人ならパラメータの振り分け、最適化は遊びの中でやっていることなので得意な人も多いでしょう。これと似たことを科学実験やビジネスの現場でも行うわけです。

(PDCAサイクル:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返すことで業務の品質向上を継続的に目指す手法で、主に生産技術の品質管理の場面で用いられてきました。)

解決力型に向いている人材はエリート

というわけで、昔で言えばちょっと頭の切れるモーレツ社員の様な人材が最適、ということになります。解決すべき課題は目の前にあるので、それに対する答えを愚直に追い求めれば良いわけです。コツコツ積み上げたり、多少の失敗も見越した上である程度の計算できる計画を立てられる人に向いています。計算可能なデキる奴、もっと簡単に言えば何でも卒なくこなすエリートのことを指します。私はこれまでにPDCAやデザイン思考が得意で、しかも優秀な人(=エリート)に数多く出会ってきました。こういう人は目に見える結果を素早く残すので出世の早い人も多いです。勝ちパターンを見つけて、それに当てはめて作業を滞りなく実行する能力が非常に高い。よって、与えられた条件を理解し、それを実際の作業に反映させて且つ結果も残す。こういう積み重ねが出世を早めるわけです。しかし、多くの場合この優秀な人達は自分達が課題を出す側に回った時に急ブレーキがかかります。何故なら、課題発見力と問題解決力は根本的に別の能力だからです。もしかしたら、逆相関の関係にあるかもしれません。うだつの上がらない上司とは、本人の能力が低い場合は少なく、むしろ元々の能力の高さを買われてその地位まで昇り詰めているはずです。しかし、その地位は多くの場合、与えられた課題を解決することで得られたものです。なので、当然次の段階である発見力も高いものと期待されて昇進するわけですが、大概は当てが外れてしまいます。何故なら、解決力の高い人ほど課題の設定を自分でしたことがない人が多いからです。よくある例えだと受験脳があります。受験では解くべき問題の範囲や定義が決まっています。その範囲で何度も反復練習を繰り返し、実際の試験に臨むわけです。パターン化脳と呼ばれることもありました。もし、これから何か行動を起こす時に全ての課題に範囲や定義が設定されているならば世の中は解決力型の人間だけで満たせば良いわけですが、当然そんなことはありません。仕事や人生でぶつかった未知の課題に対して、それを解く手がかりとなる範囲や定義が存在するのかどうかは本来分かりません。それに、その課題が解決可能かどうかもわからないのです。それが次項の発見力にもつながっていきます。例えば、私は東大理IIIを主席で卒業した人を知っています。当然、非常に解決力は高いのですが、その人の持つ発見力を感じた場面は残念ながら一度もありません。その人のもとで一緒に働く人の意見も全く同じでした。学校の成績からすれば超が付くエリートでも研究者としてはごく普通か、それ以下だったかもしれません。この例からも、発見力と解決力は別物だ、ということを理解していただけると思います。勿論、中には発見力も解決力も高いスーパーマンが現れることもありますが、それは常人が理解できる範疇を明らかに超えており、またその数も圧倒的に少ないので余り考える必要はないでしょう。少なくとも私はそうではないですし、これを読む人もそうでない人が大半ではないでしょうか。

 

発見力

問題に取り組む前の話

では反対に、発見力とはどの様な力でしょうか。ここで問題発見力は、戦略、目標までの距離感、ゴールの設定の仕方、見通しの立て方、と様々な表し方がありますが、全て同じ意味で用います。各自が理解しやすい言葉に置き換えてください。つまり、問題を選定する段階のことなので、問題に取り組む前に必要な力を指すとお考えください。哲学用語にはアプリオリ(a priori)という言葉がありますが、調べた限りではこれも同様のことを指すと考えて良いです(違うというご意見も当然あるかと思います)。枠組みを定義すること自体が目的なので、PDCAやデザイン思考、あるいはどの様なものであれ最初に何か与えられてしまうと、結局それ自体が枠組み、というよりこの場合足かせになってしまい問題発見の可能性を狭めてしまいます。枠組みがない状態から出発しないといけません。ゼロベース、という言葉で表されることもあります。枠組みを決める段で言えば、問題と思われることそれ自体を考え直す必要があります。当初問題と思われていたことよりも更に前の段階や他の要素に問題の本質がある場合も考えられるわけです。どこに問題があるのかを嗅ぎ分ける力、とも言えます。この文章の意味を理解できる人は多いと思いますが、それを実行出来る人は非常に少ないのが実際です。

発見力型に向いてる人材は前提を疑うはぐれ者

前回にも問題発見力を発揮しやすいのは先生の言うことを聞かない人間だと書きました。前提や枠組み自体を疑う心、懐疑的な態度が必要だという意味です。そうすると、仕事の指示自体にも疑いの目を向けたりするので、仕事の効率は余り高くありません。そうすると出世が遅くなるので、なかなか指示を出す側になる機会が得られません。ここに人材選びのジレンマがあるわけです。発見力の高い人は必ずしも要領が良いとは言えず、与えられた仕事を処理するのが解決力型に劣ります。従って、後者よりも出世が遅くなりがちで、本来の力を発揮する場面がなかなか与えられません。仕事をする上で指示を出す側からすれば、枠組みがないふわふわした得体の知れない対象を扱うのは定量化、数値化できないので非常に扱いにくいものです。なので、発見力の高い人の出すアイデアを客観的に評価できません。あたかも根拠が薄い様に映ってしまい、その意見が採用されにくいのです。良いアイデアを出せ、という指示に対して実際に(将来本当に結果を残す)良いアイデアを提案しても大概却下されてしまうのは、斬新なアイデア程不確定な要素が多く、その成果を数値的に予測できないからです。賛否両論は良いアイデアの証拠、と言われたりするのもこう言う不確定な部分にあるからだと思われます。論理的に予測可能な良いアイデアと言うのは多分存在しなくて、もし或るアイデアが良いものと手放しで上司に認められたら、それは斬新さと言うより(上司にとって)計算可能な良き改善案であるとみるべき代物でしょう。改善案と言うことは、既存の枠組みの中の産物であることも同時に意味することに注意すべきです。もっと言ってしまえば、一般に上司が求めるアイデアとはそう言う性質のものなのかもしれません。ですので、発見力を測る一つの物差しとして、上司による評価は使える可能性があります。但し、意見としては通らないことが多いので、不満は残ると思いますが、、、

今回はここまで。次回は発見力の育て方、鍛え方です。更には、発見力のある人間の選び方にも触れたいと思います。読んでくださり、ありがとうございます。

 

参考記事、書籍

なぜデザイン思考はゴミみたいなアイデアを量産してしまうのか

ここにある、

「デザイン思考は1→100(改善)には向くが、0→1(創出)には向かないから」

という言葉は刺さりました。これを皆が分かっていればお互いに齟齬が生まれることはないのに、実際はそうなっていないところにアイデアという卵

八割がた今回の記事を書き終えたところでこの記事に出会い、よくまとまった内容を書かれている方がいるのだな、と大変感銘を受けました。

 

PDCA」を回しまくっている人が時代遅れなワケ。世界はまずはやる方式にシフトしている

PDCAがデザイン思考の一部に含める考えもある様なので、定義は書き手や文脈によるのだと思います。

 

 

 

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