コロナウイルスとワクチンとBCGと(前編)

vaccination_mono Science

こんにちは、SHIN(シン)です。

バイオ系が専門で、博士号を持っています。現在、在米5年目で研究職です。
このサイトでは科学と技術に関する情報をみなさんと共有することで、世の中に流布する大量の情報に対して自分で判断し行動できるようになるキッカケになれば、と思っています。一言で表せば、情報リテラシーを向上させよう、ということです。
今回は、コロナウイルスとワクチンとBCGに関してです。

それでは一緒に考えていきましょう。

ワクチンとは

ワクチンとは弱毒化した病原体や死菌、或いは毒素及びその一部(トキソイドと呼ばれる)を皮膚や咽頭など体に接種して、目的の病原体に対する抵抗力をあらかじめ付ける物質及びその方法のことです。具体的には、ワクチン名(病名)とすると、種痘(天然痘)、ポリオワクチン(急性灰白髄炎、小児麻痺)、破傷風トキソイド(破傷風)、BCG(結核)などが代表的です。これらは一度免疫が成立すると基本時には終生その効力が続きます。

ワクチンの種類

先にも少し触れましたが、ワクチンには色々な種類があり、病原体の型や免疫の誘導の仕方によって使い分けられています。以下に、代表的なものを挙げます。

弱毒化生ワクチン

天然痘に対しては、馬(従来は牛と思われていた)由来の同種のウイルスを人に接種することで免疫を誘導、成立させます。種痘、と一般に呼ばれます。エドワード・ジェンナーにより最初に用いられた方法です。ワクチンというのも天然痘ウイルスの名前であるワクシニアに由来します。大切なことは、ワクチンに使われるウイルス自身の感染力は失われておらず、接種された人に対しての感染が成立することです。感染は成立するが、人への毒性は弱いのでほとんどの場合発病はしません。これによって、病原体に対する抗体のみならず、細胞性免疫も誘導されます。液性免疫と細胞性免疫の両方が成立し、個体の強力な免疫が獲得されることになります。
同様に、結核に対するワクチンは牛型結核菌を長期培養することで弱毒化させたものを人に接種します。開発した人の頭文字をとって、BCGとして一般に知られています。BCGをハンコ注射として覚えている人も多いことでしょう。これも生きた細菌を接種するので、感染が成立します。長期間ワクチンの効果は維持されますが、高齢者ではBCGワクチンの効果が薄れ、結核を発症する例がみられるようです。これは加齢等で患者の免疫力全体が下がった為に発病に至ったと考える方が自然な気がします。今回の話とは関係ありませんが、高齢者に再度BCGを接種して免疫を活性化させる試みも一部で行われているようです。

不活化ワクチン

生ワクチン以外の全てが不活化ワクチンに含まれます。接種した際に感染が起きないものを指します。

死菌や不活化ウイルス

ジフテリアや百日咳、Hib(インフルエンザ菌B型)、日本脳炎、狂犬病などに対するワクチンが含まれます。目的の細菌やウイルスを薬剤で処理して不活化したものをワクチンとして用います。感染は成立しないので、主に液性免疫が誘導されます。目的の病原体から標的の物質を取り出すといった作業を行わないので、最も単純な不活化ワクチンという捉え方もできます。

毒素及びトキソイドワクチン

毒素がタンパク質である場合、その毒素に対する抗体を体内で作らせることで無毒化し、病気を防ぐ方法があります。毒素のうち、毒性はないが免疫を誘導する能力(免疫原性という)を持つ成分のことをトキソイドと呼びます。現在では、免疫原性が高いと分かっているトキソイドを用いる場合が多く、代表的なものに破傷風毒のトキソイドがあります。元々は北里柴三郎の研究に端を発しており、長い歴史があります。日本が誇るべきワクチンの一つです。

 

組み換え(リコンビナント)タンパク質を用いたワクチン

免疫を誘導する力(免疫原性)が高いと分かっているタンパク質、或いはその部分(ペプチドと呼ばれる)を遺伝子組み換え技術により大量に生産して、それをワクチンとして用いる方法です。コンポーネントワクチン、とも呼ばれます。上述のトキソイドワクチンに近い発想です。実際、これは臨床応用されていて、B型肝炎ウイルスやパピローマウイルスに対するワクチンがあります。B型肝炎ウイルスに対するワクチンは非常に有効で、日本でのこのウイルスに対する新規感染者はワクチン導入以降激減しました。最も成功したコンポーネントワクチンと言えると思います。パピローマワクチンは日本では副作用の問題から接種が原則止まっている状態ですが、個人的には過去に研究していたウイルスでもありワクチン接種の重要性を信じている者の一人です。

DNAワクチンとRNAワクチン(新しい形?のワクチン)

核酸医薬と呼ばれるもののうち、この技術をワクチンに応用しようと考えられているものです。生ワクチンと不活化ワクチンの中間に位置すると言えばいいでしょうか。DNAワクチンに関してはWikipediaでも説明が見られますが、海外含めて実際に実用化されているものはありません。RNAワクチンに関しても同様に実用例はありません。核酸という遺伝情報を持った物質を体内に送り込んでその情報を持つ相手に対する免疫を予めつけよう、という発想なのですが、これは言ってしまえばウイルスそのものなのです。ウイルスとはナノレベルで組み立てられた核酸(遺伝子)の運び屋なのです。人間がウイルスの真似をしようとしている、と考えればよく、しかもそれは到底真似する域にまで達してはいません。人間はナノレベルの一つ手前のミクロレベルでの物質の操作すらまだまだ自由に行える段階には到達していないのです。「新しい形?」とハテナを入れたのはこういう理由によります。いきなりコロナウイルスのワクチンにDNAワクチンを用いるようなことを書いてある記事を見かけます(後述)が、実績のない方法で副作用の有無もわからないようなものをいきなり実践の場に応用するのは非常にリスクが高いことだと思われます。

コロナウイルスに対するワクチン開発

現在、各国でコロナウイルスに対するワクチンの開発が行われています。今回はこのサイトを参考にさせてもらいました。
(尚、コロナウイルスに対する治療薬候補の情報についても充実しており、今後のブログでもこれを参考にしながら治療薬関連についても述べる予定です。)

新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】

挙げられているワクチンは先に説明したもののうち、不活化ワクチン(不活化ウイルス?)、DNAワクチン、RNAワクチン、ウイルスベクターワクチン等があるようです。ウイルスベクターワクチンに関しては説明しませんでしたが、DNAワクチンやRNAワクチンに似ていると思っていただければ大丈夫です。用いる核酸を包むのに人工的に合成された物質を使うか、ウイルスを使うか、の違いになります。いづれにしても未だ確立されていない技術です。

欧州初のワクチン臨床試験、英オックスフォード大で始まる

この記事によると、オックスフォード大学はアデノウイルスを基本としたウイルスベクターワクチンを用いるようです。MERSにおいての開発経験があるとはいえ、いきなりヒトで試すのはかなり危険を伴うと思われます。

中国の研究チーム、新型コロナワクチンの動物実験結果を発表

Development of an inactivated vaccine candidate for SARS-CoV-2

この記事の発表論文によれば、ウイルスを不活化したワクチンを用いたようです。実験動物にはサルが使われており、肺の病理変化に改善が見られたということです。こちらの方が従来のワクチンに近いので臨床応用しやすいと思われますが、常に変化するウイルスに対応できるのかは疑問です。というのも、既に数百種類の変異が今回のコロナウイルスで発見されているからです。

Coronavirus mutations: Scientists puzzle over impact

この記事でも、一体どの変異が重要なのかは分からない、としています。私は現在挙げられている候補の殆どは失敗に終わる(多分、全滅)と予想していますが、ワクチン開発の今後を占う上で参考にしていただければと思います。私の予想も良い意味で外れれば、とも思っています。

 

今回は、長くなってしまったので、ここで一旦小休止しようと思います。

次回、後編です。

 

 

 

 

 

コメント

  1. […] 前回からの続きで主に、コロナウイルスとBCGに関してです。 […]

  2. […] この記事は前回のコロナウイルスとワクチンとBCGとでも参考にしました。図のコピペは著作権に問題が生じると困るので、リンク先のものを確認するようにしてください。ここでは抗ウイルス薬と肺炎の治療薬に大別されており、その中で様々な種類に分けられています。更に、開発中の薬剤も別途挙げられています。その中で、特に注目すべきは緊急事態ということもあって実際に臨床応用が開始された薬剤があります。それらを中心に取り上げます。 […]

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