コロナウイルスと治療薬

Drugs Medicine

こんにちは、SHIN(シン)です。

バイオ系が専門で、博士号を持っています。現在、在米5年目で研究職です。

このサイトでは科学と技術に関する情報をみなさんと共有することで、世の中に流布する大量の情報に対して自分で判断し行動できるようになるキッカケになれば、と思っています。一言で表せば、情報リテラシーを向上させよう、ということです。

今回は、コロナウイルスと治療薬に関してです。

それでは一緒に考えていきましょう。

コロナウイルスに対する抗ウイルス薬

最初に、今回参考にしたサイトを以下に貼っておきます。

新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】

この記事は前回のコロナウイルスとワクチンBCGでも参考にしました。図のコピペは著作権に問題が生じると困るので、リンク先のものを確認するようにしてください。ここでは抗ウイルス薬と肺炎の治療薬に大別されており、その中で様々な種類に分けられています。更に、開発中の薬剤も別途挙げられています。その中で、特に注目すべきは緊急事態ということもあって実際に臨床応用が開始された薬剤についてです。それらを中心に取り上げます。

 個人的には以前に述べたBCGの接種や漢方薬の麻杏甘石湯を用いれば十分だと思っています。しかし、全ての人に当てはまらないのと、仮に罹患したとして臨床の現場では西洋薬中心に治療が進められるであろうことから、以下レムデシビルとアビガン(ファビピラビル)について記述します。結論を先に述べれば、私が医者でも患者でもアビガンを処方する(してもらう)だろうということです。

 

レムデシビルとアビガン

レムデシビルは米国のギリアド社が開発したものです。元々はエボラウイルスに対する薬剤として開発され、アフリカで治験が行われました。それらには有意差が見られなかったが、今回コロナウイルスに対する効果が見られた為に、急遽転用することになったようです。作用機序としては、細胞内にこの薬剤が取り込まれた後、リン酸化されます。このリン酸化化合物がコロナウイルス(や他のRNAウイルスも含む)自身のポリメラーゼによって一本鎖ゲノムRNAが複製される際に核酸アナログ(擬似体)として取り込まれ、核酸の伸長が止まります。これによって、ウイルスの増殖が阻害され、患者は快方へと向かうことが期待されます。他方、アビガンも基本的にはレムデシビルと同じ仕組みでウイルスの増殖を抑えます。アビガンはインフルエンザウイルスに対する治療薬として富山化学により開発され、20143月に厚生労働省から使用の認可が下りています。既に、6年以上の実績があることになります。この薬がコロナウイルスを含む他のRNAウイルスの増殖を抑えることも実験で確認された為に、今回臨床応用する運びとなったようです。

 この記事を読む方には薬が作用する細かい仕組みについて理解していただきたいのではありませんが、前提としては上述の様な背景があります。では、実際の効果に目を向けてみましょう。ブルームバーグの記事によれば、1000人以上が治験に参加して、レムデシビルが投与された群は回復する日数が11日とプラセボ群の15日に比べて4日早かったということですが、統計的な有意差については述べられていません。

Fauci Calls Data From Gilead Virus-Drug Trial ‘Good News’

レムデシビル早期承認の謎

米国も官民一体で抗ウイルス薬の開発に躍起になっているのだと思われますが、かなり無理をしているように見受けられます。死亡率にも有意差がつかなかったと最初の参考記事には書かれています。英語の記事では有意差については書かれていません。欧米にも忖度が存在するということでしょうか。また、回復の日数を見てピンと来た人は勘の鋭い方だと思います。そもそもコロナウイルスの症状が出てから10日以上苦しむ人が何人いるのか、ということです。発症してからあっという間に死に至るのが新型コロナウイルスの特徴であったはずです。それが、プラセボ群の場合、15日間も入院した上で退院しているわけです。イタリアのデータでは発症後平均8日で死亡するというデータが出ています。

新型コロナ感染者、発症から死去まで平均「8日間」 イタリア調査

つまり、このプラセボ群で言えば15日間も生きている人はそもそも何もしなくても死なない人ばかりがそこに含まれていたという可能性が高いです。穿った見方をすれば、死ななそうな人ばかりをプラセボ群に選り分けた可能性もあります。その他に、人工呼吸器が必要だった人の割合やどれ位副作用が出たのかなどの治療経過も明らかではありません。ここに数字のマジックがあります。一見効いた様に見えるデータだけで判断するのは危険なのです。行間を読む、という言葉がありますが、ここにもぴったり当てはまります。目に飛び込んでくる数字だけを見て判断してはいけません。

新型コロナ、米Gilead社のレムデシビルの第3相臨床試験で有望な結果か

更に、これは後から気が付きましたが、Wikipediaでは英語と日本語でレムデシビルの記述が異なります。英語版では様々なウイルスに対して効果がなかったことが最初の要約の部分に書かれてあるのに、日本語版では効果がありと書かれています。

Remdesivir

レムデシビル

日本語しか読まない日本人を故意に誤った方向へ誘導しようとしているのでしょうか。しかも、元々はエボラウイルスではなく、C型肝炎ウイルスやRSウイルスという別の呼吸器系ウイルスの研究に端を発しているとギリアド社のメディア向け書類にははっきりと書かれてあります。(英語で書かれたものは殆ど読まないからバレない、という感じなのでしょうか。こういうこともあるのでリテラシーを上げることは大切です。)

DEVELOPMENT OF REMDESIVIR (PDF)

ギリアド社が辿った経緯を考慮すると、研究開発に莫大なお金を投資しつつも全く回収の目処が立たなかった薬剤に対して資金回収できるかもしれない千載一遇の機会を得た、と見るのが妥当な気がします。少し早い段階で後述のアビガンが効きそうだ、とマスコミを筆頭にあれこれ記事にしていたのに、レムデシビルが出てきて急にトーンダウンしたことからも米国の圧力という影がちらついている気がします。更には、薬の承認までの段階が余りにも性急です。既に薬として認可の下りているアビガンを差し置いて、未だ治験薬の段階のレムデシビルの方を優先して使用の承認を出したのです。

厚労省がレムデシビルを承認、新型コロナ治療薬として国内初

これはかなり危険な賭けです。何故なら、先に挙げた様に薬として効くことも大切ですが、薬の開発においては何より副作用の心配が先にされるからです。既に薬として認可が下りているアビガンにはここに大きな利点があります。仮に効果が低くとも、重大な副作用を避けられる可能性が高いわけです。アビガンの投与の甲斐なく亡くなったという報道はありますが、幸いこれまでにアビガンの副作用で亡くなったという例はないようです。

 例えば反対の例を考えてみましょう。米国FDAで6年前に既に認可が下りている薬と現在日本で開発中の薬があったとして、今回の様な緊急事態に認可済みの薬の転用と、未承認の薬をいきなり臨床で用いるのと厚生労働省はどちらに許可を与えるでしょうか。ただでさえ厚生労働省は沢山の薬害訴訟を抱えており、基本的には全くリスクを取らない方向に動くはずです。つまり、この場合であれば米国の薬をすぐさま認める方向へ動くでしょう。日本の薬は箸にも棒にもかからないはずです。後で重大な副作用が出た場合に困るからです。そうまでして今回のレムデシビルを三段飛ばしの勢いで認めるのは強い政治的な意図、具体的には米国からの圧力があったとみるより他ありません。承認過程の現場にいる人達はそうと分かってはいても言えない、というのが実際のところでしょうか。

レムデシビルとアビガンの差

 さて、ここまで書いてきて、レムデシビルとアビガンの間にある決定的な違いについて書いていないことがあります。それはレムデシビルが点滴薬であるのに対し、アビガンは錠剤(飲み薬)であることです。これこそが薬剤としての使いやすさを決定づける部分だと思っています。錠剤という形は一度にたくさんの人に投与しなければならない場合に重要な部分です。保管や運搬、投与までの時間という点についても有利です。また抗ウイルス薬に限れば、現在殆ど点滴薬というものはありません。アシクロビルというヘルペスウイルスに対する点滴薬がありますが、これは錠剤もあるので点滴は特別の場合に限ると考えて良いでしょう。マスコミの報道では点滴か錠剤かといった基本的かつ重要な部分に触れたものを見かけません。私の様な個人のブログで記述のあるものは幾つかあるのを確認しています。アビガンとレムデシビルは重症度の違いで使い分けるということもある様ですが、薬の作用機序がほぼ同じであることから考えるとこの分類は余り意味のある分け方には思われません。アビガンにだけ催奇性がある様な記述も見かけますが、作用機序がほぼ同じならレムデシビルに出ないはずがないですが、データが表に上がって来ないので何とも言えないところです。今後の臨床データが公表された時に明らかにされることを期待したいと思います。

 少しだけ福音があるとすれば、アビガンの量産に目処がつきそうであることから、これを今後起こりうるウイルスの大流行に対する備蓄薬として使える可能性があることです。既にエボラウイルスに対する治験薬として用いられて一定の効果は上がっているようです。少なくとも複数の論文で効果がありそうだ、と結論を出しています。というわけで、私は今のところ使うとするならアビガンが最も確実で安全だろうと考えています。少なくともレムデシビルを使って博打をする勇気はありません。アビガンだけが唯一の抗エボラウイルス薬である必要はなく、今後も様々な薬剤が開発されより確実な治療体制が整えば、と思います。

コロナウイルスと重症肺炎への対症療法

これも最初に挙げた参考記事の中で表にまとめられています。その中で筆頭に挙げられるのは、抗IL-6抗体です。IL-6とは、インターロイキンと呼ばれる免疫を活性化させる働きがあるタンパク質の一つです(免疫を抑制する別のインターロイキンもあります)。このILー6に対する抗体は患者の中で過剰に反応する免疫を抑える働きがあります。その一つのアクテムラは日本で開発された抗体医薬の代表的なものの一つで、15年以上臨床で用いられてきたので、投与量など既にたくさんの臨床的なデータの蓄積があります。一方、米国からの後発品であるサリルマブに関する情報は未だ少ない様です。

アクテムラ

過去を振り返ると、2003年のSARS騒動の時の治療法が参考になります。何故ならSARSも今回のウイルスも同じベータ属に分類されるコロナウイルスだからです。そして、症状も非常によく似ています。当時は、未だ抗IL-6抗体が用いられることはありませんでしたが、似たような免疫抑制効果をもつステロイド剤を高用量で投与して奏功した例がありました。

9. SARS Treatment

この時の経験から、何かしら免疫の過剰な反応が病態の重篤化につながっていることが推測され、今回少なくとも重症化とIL-6の間に相関関係が見られた為にアクテムラを用いることになったようです。その他、SARSにおける過去の研究でもIL-6の分泌が免疫反応の妨げになる旨の論文が発表されていました。

Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS) Coronavirus-Induced Lung Epithelial Cytokines Exacerbate SARS Pathogenesis by Modulating Intrinsic Functions of Monocyte-Derived Macrophages and Dendritic Cells

実際、今回のコロナウイルスに対してアクテムラ(tocilizumab)が有効であるとの論文も発表されています。

Effective treatment of severe COVID-19 patients with tocilizumab

今後、重症患者に対してアクテムラの単剤投与でいくのか、アビガン等の抗ウイルス薬と組み合わせるのかなどの方向性も気になるところです。

 

まとめ

今回はレムデシビル、アビガン、アクテムラの三種に絞って書いてみました。その他にもイベルメクチンが有効であるとか、様々なことが言われています。しかし、ウイルスそのものを標的にしたものは今のところレムデシビルとアビガンのみで、他の薬剤は間接的な抑制効果を狙ったものばかりです。また、重症患者に対する治療もアクテムラ以外は臨床上の効果は未知のものが殆どです。どれが一番効くか、という問題はさておいて、今回の話ではリスクの大きさに対する懸念も充分考慮に入れなければならない、という旨のことを書いたことになります。最後に、私と同じようにリスクを懸念する他の方の意見にも耳を傾けつつ終わりにしたいと思います。

コロナ向けの「新薬」に潜むリスクを無視してはいけない

 

次回からは、分子生物学についてのよもやま話を書こうと思います。

 

 

 

タイトルとURLをコピーしました